年明の紙業界はひっくり返っています。
年賀状に端を発した再生紙問題・・・・・兎屋も紙製品(手芸用紙バンド)を扱っていますので、この際、昔から思っていた事や、日々のニュース、紙業界の仲間達との話から、再生紙について兎屋の解釈をして置きたいと思っています。尚、この問題は引き続き注目して行く積りです。それにしても実際と、契約との古紙混入率との差が、これほどとは・・・・。しかも大手製紙会社のほとんどで・・・。
■再生紙の認識・・・ズレ
紙バンドの原紙(手芸用も含む)は各製紙会社から出ていて、各流通、販売店によってさまざまです。原紙は静岡と四国の製紙会社で抄かれています。兎屋の場合(私の感覚です)再生紙100%と呼ぶ場合、当然「古紙100%の紙」と言う認識で使い、この感覚は一般の方が思われる事と同じだと思っています。ただ、売り手からすれば、(そう思うのは皆さんの勝手ですよ。なぜなら再生紙には定義がありませんから)という論理になりますし、わざわざそんな事は説明しません。それは、紙バンド原紙だけでは無く、一般に流通している紙でも同じ事です。皆さんも昨今のニュースで再生紙と言う語句に定義が無かった事はわかりましたね。少しでも古紙が入っていれば「再生紙」と言っても良いですが、この言葉自体、マスコミが20年も前に作ったような言葉で、紙業界の言葉ではなく、それを紙業界が便宜上使っています。その場合再生紙に対する認識は、紙業界と消費者のそれとはかけ離れている思って間違いありません。その原因は、業界(会社側)が説明するのを怖がっていたからで有り、売るのに都合がよかったからです。
たとえば
100%再生紙と言った場合、実は古紙100%の紙なのか、古紙10%の紙なのかわかりません。明記する義務はありません。ちょっと考えて見てください・・・古紙100%の紙、または古紙50%の紙と言われればすぐに納得出来ますが、再生紙100%って、おかしいでしょ?「・・・このノートは再生紙100%で作られています…」と言われると。100%再生紙で作られている事はわかりますが、じゃあその再生紙の古紙配合率は?と言われると「?」です。100%古紙の紙かもしれませんが、そうでないかもしれません・・・・。仮に再生紙80%で作られているノートが有るとして、ノートの本体(80%とします)は再生紙だけど表紙は再生紙では無い事位しか分からず、全体の古紙配合率は不明と言う事になり、で、本体部分の再生紙に古紙が10%しか使われていないとすれば・・・・はやり買い手の意識と実際はかけ離れていると言えます。そのノート(再生紙80%)を使う人がこのノートの本文部分は80%古紙で作られていると思っても 、それは不確かと言う事ですし、そう思うのは勝手です。
たとえば
牛乳パックから作られた・・・と聞くと、いかにも家庭で飲み終えた牛乳パックで作られたと思うのが消費者の感覚でしょうが、すべてそうではありません。牛乳パックを作る紙加工工場から出た栽落:サイラク(印刷工程後、紙の打ち抜き工程で出た切り落としの所、印刷が無くきれい)を使った紙でも、牛乳パックの古紙を使っていますと呼びます。でも売り手は詳しい説明はしないですし、消費者が「私達が集めてスーパーなどに持ち込んだ牛乳パックが再生されて居るのだ」と思うのは勝手です)。
スーパー等から回収されたパックは、一度古紙問屋に集められ、牛乳パック古紙の塊になり、また製紙会社に売られますが、表面フィルム処理や印刷が施され、洗浄程度にばらつきの有る牛乳パック古紙は、再パルプ化工程で、通常パルプより薬品や動力のかかる事はまちがいありませんし、出来たパルプや紙には必ずインク残渣があります。私も牛乳パックを溶かす工程を見ていましたが、ミルキーな香りが工場に漂っていましたよ。今から10年ぐらい前かな?回収牛乳パックの古紙を買ってもらい、パルパー(古紙パルプを投入する一番初めの機械)でかき混ぜ、表面に張られているポリエチレンフィルムと紙を分離するのですが、パルプ部分を次の工程に送った後、引き揚げたポリエチレンフィルムの塊は大きかったです。これじゃあゴミを買ってるようなもので、手間ばかりかかってコストは高くなるし、ゴミの処理だって大変です。大手製紙工場なら、燃やして燃料にするか、乾燥灰にして埋め立てますが、小規模製紙会社の場合は濡れたビニール状の塊(ポリエチレンフィルム)は、そのまま埋めます。もちろん合法です・・・・。と言う事は、回収牛乳古紙は設備の有る大手製紙会社が使うべきです。
業界の説明不足と受け手の思い込みが、今回のズレとなっています。時間で言えば20年数年。神奈川県が購入する紙として「やまゆり」という紙が使われ始めた頃からかな?その製紙会社、今は無くなっています。
実は私も2000年~2001年頃、静岡県の小さな製紙会社に在職中、当時自社では売っていなかった古紙100%のA4&B4の紙を作ろうとして、工場現場と、加工会社(社外)と売り先の人達とテスト品を作りながらトライした事が有ります。自社として新しい商品開拓をしたかったからです。もちろん100%古紙です。その時どうしても他社(大手製紙会社)のサンプル品と比べて白色度が劣り、古紙を選別して購入し作った事が有ります。なぜなら都道府県や市町村向けの入札のA4&B4用紙は <古紙100%:白色度70> という決め事が有ったのです。古紙を選別して(印刷部分の少ない古紙)白くしましたが、原料の安定確保と、ロット毎の品質に問題が有りました。結局、その取り組みは社長の命令でストップとなりました。大きな理由は(大手品に比べての品質の悪さと、納入先に対する品質保証不備・・・これには自信が有ったのですが・・・・。)でしたが、今となっては、大手製紙会社はパルプを使って品質を保っていたと言う事と、大手製紙会社の偽装再生紙の性能が納入先の意識を誤らせた と言う事で、真面目に再生紙のA4&B4を作ろうとしていた私も、今となっては踊らされていたし、大手はズルをしていたと言う事です。
■何故再生紙なのか?・・・・
単純に言えば、再生紙と言った方が売りやすい(と思っている)から、という売り手の意識と、環境保護を重要な問題と考える社会一般(世間)が有る言う事です。どちらが先かは今となってはわかりませんし、今更その時の状況は問題ではありません(興味はありますが)こう書くとお互い罪のなすりつけ合いになるのですが、一番初めの動機としては、やはり環境保護の志があった受けての意識はまちがいなく有ったと思います。その状況の中で、正直に疑問を訴えた製紙現場の声を消した会社(営業本意)と、更なる勉強を怠った受け手の責任は無視出来ません。よく考えれば無理な話で、古紙が入ればが紙が不安定になるし、色紙(兎屋でも使っています)の場合は、色の再現性に困難を生じます。なんでも再生紙とすれば正義となるような風潮と、それに乗って活動した製紙各社(各セクション)の思惑が、ここで一気に噴き出てしまったのが 今 です。
自治体などでは「この名刺には再生紙が使われています」見たいなロゴが入っている所がありますし、中にはそれを拡大解釈したで部署で、「再生紙で作られた名刺以外は受け取りません」見たいな事を得意げに言う人も居たように聞いています。こうなるともう漫才です。グリーン購入もそうですが、昨今の再生紙ブーム(これもブームでしょうか?)には官庁や団体が関わっている場面が多く、時として大きな牽引力となっていました。正直でなかった、あるいは勇気のなかった製紙会社はもちろん責められるべきですが、受け手の不勉強はどうだったのかと思うと、一般消費者に対する罪をすべて製紙会社に向けるような風潮にも、やはり「うすらさむい思い」を感じています。(何回も言いますが確かに製紙会社は非難されても仕方ないのですが)今更ながらびっくりして、製品購入をストップしますと宣言する自治体や会社は、偽再生紙の仕入れをストップ、または返品する事で、自分たちが被害者になろうとしている気がしますし力関係でそれはたやすい事です。しかし通常、(特別抄きで紙を作る場合も含め:文具メーカーの場合はこのケースがほとんど)製紙会社や代理店の担当者と、購入側の担当者は、企画や商談の際、かなり突っ込んだ打ち合わせをするわけですから、一方的な被害者意識は、問題の本質を霞めていると言えます。それでも「知らなかった」「説明がなかった」と言うのでしょうか?(注:だからと言って製紙会社を擁護する訳ではありません)
■兎屋の商品(手芸用紙バンド)について
さて、兎屋の商品のうち、くらふと系の紙バンドは100%古紙で作られているはずです・・・・はずと言うのは、今回の問題で、製紙会社に対する不信が高まった事です。地域性(静岡)とその製紙会社の設備や方向性から考えればくらふと系の場合は古紙100%である可能性は高いですが、品質の良いクラフト古紙を今でも集めているかどうか?調べようと思っています。一方 兎屋のカラー紙バンドですが、これは兎屋オリジナルで始めた2002年から100%バージンパルプで作っています。古紙は使用していません。と言うか地域性(四国)があって古紙が集まりにくいので、結果バージンパルプを使っています。
私(兎屋店主)は、設立当初から自店の兎屋紙バンドに対して、「再生紙で作っています。だから自然や環境にやさしいです」と言った事がありませんし、私自身そういった感覚は持っていません。(そらぞらしい事は知っていましたから)それよりも、歴史の浅い手芸用紙バンドの品質を上げる為に注力していますし、それは今も変わりません。それに紙バンドは(も?)再生紙だ、と言う風潮がズレている事は知っていたので、お客さんに誤解の無いように「兎屋の場合、兎屋カラー紙バンドについてはバージンパルプで作っています。古紙は入っていません」と言う事を、ブログでも述べています。再生紙がえらいのだ。という昨今の紙の世界で、わざわざ「再生紙や古紙を使っていません」というのもおかしいですが、そう言う時代が20年続いたと言う事です。お客さんに誤解や結果嘘は言いたくないし。紙の世界で出来る、別の方法での環境保護の形についても意見は持っています。ただ、それを行う段階に兎屋がないと言う事です。(残念ですが)因みに、究極の環境保護は、製品を作らなければいいと言う事になりますが。それではうちの家族は生きて行けません。無駄な事はしませんが、少ない紙を抄かせてもらって、加工して、お届けする活動は、今後も行って参ります。
※紙紐やこよりといった伝統材料から派生した紙バンドは、まぁまぁ長い歴史が有ります。だからこそ手芸用紙バンドの品質を上げたいと思っています。まだ開業して数年ですが、兎屋の営業の半分は、紙の品質UPで、残りが販売と管理です。
2006年3月30日の兎屋ブログ