今度の出張スタートは滋賀県湖南市でした。目的地は蛯谷工芸さん。この春に蛯谷さんと出会いが有り、その時は蛯谷さんが関東地区で展示会をされていたのですが、ぜひ一度工房にもお邪魔したいと考えていて、今回実現に至りました。
場所は、滋賀県湖南市正福寺の住宅街に有ります。ちょうど湖南市付近の作家さん達が秋の展示会をしていて、それぞれの工房を開放し数々の作品を展示されていました。
(一閑張)とは竹や木で籠や箱などを作り、それに和紙を張って、柿渋や漆で仕上げた物を言います。産地は日本各地にあり竹を使うのが一般的です。この春、川崎のデパートで展示会をされていた時に、初めてお目にかかり、作品を見せていただいたのですが、その時の第一印象は、しっかりして丈夫そうな物という印象でした。手にとって見ると、和紙独特の風合いと軽さがなじんでいて、毎日使う生活用具であると感じました。こういう物に囲まれた生活は、きっと落ち着いた日々を提供してくれると思います。
で、なぜ紙バンド手芸の兎屋が、近江一閑張の蛯谷工芸さんにお邪魔してるかと言うと、蛯谷さんは今から40年以上前、紙バンドが開発された時から、この素材を芯にして一閑張を作って来た方だからです。私は製紙会社の営業マンの時に紙バンド手芸に出会い、このマイナーな手芸を何とか陽のあたる所に押し上げてやろうと思い、兎屋を立ち上げたのですが、当初から紙バンドでカゴやバックを作る以外に、なにか違った表現方法は無いものか探していました。その答えの一つがこの近江一閑張なのです。

近江一閑張の場合、紙バンドで基を作り、和紙を張って行くので、兎屋の特徴の一つで有る、カラーバリエーションは意味を成しません。芯となる紙バンドはあくまで下工程の材料で、近江一閑張のおもしろさは、上に張る和紙の美しさに有ると言えます。しかし蛯谷さん家族(家族で近江一閑張に取り組まれています)とお話をさせていただいてると、下工程の紙バンドにもこだわりを持ちたいという気持ちが伝わって来るので、どうやら新しい紙素材を作りたいと常々考えている私に火が点きそうになって来ました。目的があると、新しい物を作る時に目標を絞っていけるので良いのです。蛯谷さんとお話をしながら、頭の中はどんな紙を探そうか?と考えていました。それにもう一つ。蛯谷さんは高齢の方です。しかし物作りに対しての姿勢は、留まるところが無いように見受けられました。それは新しい素材という事にすごく興味を持たれているからです。きっと40年以上も前も同じだったのでしょう。新しい事をしなければ成らない環境も有ったのでしょうが、それを乗り越え成し遂げて来た人が、目の前に居ると思うと、私も励みになりました。好奇心とフットワークで、兎屋をやっていますが、滋賀県でまた一人、お手本にしたい人を見つけることが出来ました。
注)この記事は2006年10月29日(旧)兎屋ブログからの転載です。