再生紙の話(その5)

再生紙の話は3回ぐらいで終わろうと思っていましたが、書いているうちに、いろいろ絡みが有り、複雑であったことに今更ながら驚いています。自分では納得していた積りでしたが、あれもこれも再生紙?は背負っていました。日本の歴史、地理、社会が密接に影響している事が良く判ります。ひと言で「再生紙」とか「再生パルプ」と言っても提供者、と受け手(皆さん)では全くイメージが違うと思います。再生紙という言葉ばかりが先走っている昨今ですが、出来るだけ実像に近いところで考えて見たいと思います。

今まではなぜ古紙入の紙がここまで注目を浴びるのか?また、最近の「再生紙?」という言葉の発生の簡単な流れを書いて参りましたが、今回は、古紙入の紙が注目された後の、良い面とそれに対しての影の部分を書いてみたいと思います。

製紙産業を取り巻く社会の状況が変化し、日本の製紙業は世界トップクラスの産業に育って行き、今に至って居ますが、それと共に環境型の産業に変化しなければならない使命も背負ってきたことはすでに述べた通りです。(これは紙パルプ業界だけに言える事では有りませんが)

流れはそのようになってきましたし、それに伴う困難の数々も乗り越えてきてますし、乗り越えつつあります。 が、 それは大手の製紙会社の事であり、あるいは資金力の有る製紙会社のことです。
大手や資金力の有る製紙会社は、困難に立ち向かうだけの総合力が有り、社会の状況変化に対応することが出来ました。(大手ですら大変なことですが)一体どこにお金や技術が必要だったのかというと、公害対策費のひと言に尽きます。

高度成長期とは国民の所得が上がり、日本が戦後の混乱、低迷期から脱することが出来た時期ですが、同時に負の財産とも言うべきものもたくさん生み出してしまいました。その代表が「公害」です。製紙業界だけとって言えば、有名な「静岡県田子の浦のヘドロ」です。教科書にも出てますね。私が小学生の時のことですが、水俣病やイタイイタイ病と共に連日ニュースで報道され記憶に刻まれた事件でした。静岡県の製紙地区以外でも四国などの製紙産業が盛んなところで、臨海地区はどこも同じような問題が起こっていました。

その後、補償問題など起こってきましたが、それと共に製紙業界の見直しが始まりました。製紙業の公害といえば、騒音、水質汚染、大気汚染ですが、特に水を大量に使う製紙では水質汚染が深刻でした。過去には抄紙時に発生し直接川に流されていた排水中に大量のパルプかすが入っており、それが海に堆積してヘドロとなったのです。

静岡県富士地区の製紙地帯では「岳南排水路」がその排出の最終管理を一元的にして、各工場の排水を毎日サンプル採りし監督しています。お陰で田子の浦はきれいになって参りました。でも時々排水工程をズルする製紙も何年かごとに、たま~~に摘発されています。オーナーの意識の低さが伺われます。この時代そのような製紙会社の末路は見えていますね。

さて、各工場は自前で公害対策を行ってきましたが、その経費は膨大でありました。工場が大きければ設備も大きくなりますが単位数量あたりの処理費用は少なくて済みます。ところが中小の製紙(特に小さい会社)は売上げや規模に対しての公害対策費の占める割合が大きいものになってしまいます。
中小工場が何社か集まって共同で公害対策設備を持つということも行われていますが、違う会社が集まって何かをやるということはなかなか難しいものです。実際そうやってる所も有りますが。
とにかく高度成長期に発生した公害とそれに伴う一応の対策は整って行きましたが、まだ経済は右上がりの時代でしたので、製紙会社がドンドンつぶれるというようなこともありませんでした。しかし、1980年代頃からは製紙にも不況の波が忍び寄ってきました。まだ世間はバブル景気に浮かれている頃で、製紙会社に中には世界的に有名な絵画を買ったりするところもありました。

しかし、紙の営業として私が感じた事は紙の価格はドンドン下がる一方で有りながら、品種は増えるばかり、それがまた値下げの原因になっていくという悪循環を感じていました。付加価値という言葉が社会にあふれていました。何より 紙の値下げ競争には毎日付き合わされていましたが、値上げ交渉は記憶にありません。痺れを切らせて各社で価格の値下げ競争はやめましょうとの集まりが開かれていましたが、功を奏したと云うことは聞いた試しが有りませんでした。ということは、各製紙会社の体力は落ちて来てたといえるでしょう、ただバブル景気のお陰で紙が売れていただけのことでした。

こういうときは何故か古紙の価格は低いものですがこれは、今となって考えると暗示めいていたなぁと思います。(そういえばバブル時代には証券用紙という紙が売れてて、○○証券印刷という会社もありましたね。証券用紙の需要がそんなにあるのかな?と思ってましたが、バブルがはじけて、その印刷会社はなくなりまして。)こういう時代に再生紙?という言葉がささやかれ始めました。以前の公害対策第一期の時代とは違い、製紙会社を取り巻く環境は確実に悪いものでした。。。。

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